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嚥下障害とは？まず知っておきたい基本
嚥下障害（えんげしょうがい）とは、食べ物や飲み物をうまく飲み込むことが難しくなる状態を指します。高齢者に多いイメージがありますが、病気やケガ、発達段階による影響で、年齢に関係なく起こることがあります。
食事は生きるために欠かせない行為であり、楽しみのひとつでもあります。だからこそ、飲み込みがうまくできないと、食事に不安を感じるようになり、本人だけでなく家族にとっても負担が大きくなります。
嚥下障害は、早めに気づいて適切な対応をとることで、食事のしやすさを保つことにつながります。まずは基本的な仕組みから理解していきましょう。
嚥下（飲み込み）の仕組み
飲み込みは大きく3つのステップで行われます。
・口の中で食べ物をまとめる
・のどの奥へ送り込む
・食道を通って胃へ届ける
普段は無意識に行っている動作ですが、多くの筋肉や神経が連携して働いています。このどこかに問題が起こると、飲み込みにくさが生じる可能性があります。
嚥下障害が起こる主な原因
嚥下障害にはさまざまな原因があります。
・加齢による筋力低下
・脳血管疾患（脳梗塞・脳出血など）の影響
・神経疾患による筋肉の動きの変化
・口腔内のトラブル
・長期間の寝たきりによる機能低下
原因によって対処方法が異なるため、「なぜ飲み込みにくくなっているのか」を知ることがサポートの第一歩です。
嚥下障害のよくあるサイン
嚥下障害が疑われるサインには、次のようなものがあります。
・食事中や食後にむせることが増えた
・飲み込みに時間がかかるようになった
・食べ物が口に残りやすい
・食事量が急に減った
・声がガラガラしやすい（食後に多い）
「むせ」が繰り返し起こる場合は、飲み込みにくさのサインであることが多いと考えられます。早めに家族が気づいて寄り添うことが大切です。
嚥下障害と誤嚥の関係
嚥下障害を語るうえで欠かせないのが「誤嚥」という状態です。誤嚥とは、本来食道を通るはずの食べ物や飲み物が誤って気道に入ってしまうことを指します。
普段であれば、飲み込む際に気道がしっかり閉じる仕組みになっていますが、嚥下機能が低下するとタイミングがズレやすくなり、誤嚥が起こりやすくなります。
誤嚥が起こる場面
誤嚥は食事中だけでなく、以下のような場面でも起こることがあります。
・よだれを飲み込むタイミングが遅れたとき
・寝ている間の無意識の飲み込み
・急いで食べた時
誤嚥が続くと食事が怖くなり、食事量が減ってしまうケースもあります。焦らず、本人のペースに合わせながらサポートしていくことが重要です。
家庭で気づける嚥下の「小さな変化」
食事の姿勢の変化
嚥下機能が弱くなると、以前と同じ姿勢では飲み込みにくくなることがあります。「前よりむせやすい」「うまく食べられない」と感じる場合は、姿勢が影響している可能性もあります。
食べるスピードの変化
「食べるのが遅くなった」という変化も嚥下障害の初期サインである場合があります。本人がゆっくり食べているのではなく、飲み込みに時間がかかっているケースも考えられます。
好きな食べ物を食べたがらない
以前は好んで食べていたものを避けるようになった場合、飲み込みづらさが背景にあることもあります。硬さや大きさなど、食べやすさが影響している可能性があります。
嚥下障害の人を支えるための基本ポイント
無理をさせない食事環境づくり
嚥下障害のある人にとって、落ち着いて食事ができる環境はとても大切です。静かな場所で焦らず食べられるよう配慮することで、飲み込みやすくなる場合があります。
食べやすい形状を工夫する
嚥下障害といっても、その程度は人によって異なります。家庭では以下のような工夫が取り入れられます。
・柔らかく煮た食材にする
・細かく刻む
・とろみをつけて飲み込みやすくする
ただし、必要な形状は個々で異なるため、本人の状態に合わせて調整することが大切です。
嚥下障害がもたらすリスクとは
誤嚥によるトラブル
嚥下障害が進行すると、食べ物や飲み物が気管に入りやすくなり、むせ込みが増えることがあります。むせること自体は身体の防御反応として自然なものですが、頻繁に起こるようになると食事時間の負担が大きくなったり、本人の食欲が低下したりすることがあります。日常生活の中では「食べることが怖い」という心理的ストレスにもつながることがあるため、早めに気づいて環境を整えることが大切です。
食事量の低下による生活の質への影響
嚥下が難しくなると、一度に食べられる量が徐々に減っていくことがあります。十分なエネルギーや水分が摂れない状況が続くと、体力や活動量が低下し、生活の質が変化していくこともあります。介護の現場では、少量でも摂りやすい献立や、無理のない食事姿勢の工夫が取り入れられることが一般的です。
食事時間が長引くことによる負担
嚥下障害がある方は、食事を飲み込むまでに時間がかかる場合があります。そのため、食事介助を担当する家族や介護スタッフにとっても食事時間が長くなり、心身の負担が増えることがあります。周囲のサポート体制を整えながら、無理のないペースで食事を行うことが大切です。
嚥下障害に気づくための観察ポイント
むせや咳の増加
食事中や水分摂取時にむせる回数が増えた場合、嚥下の難しさが隠れている可能性があります。特に水やお茶のようなさらっとした飲み物でむせる場合は、より注意が必要です。
食後の疲労感・食事ペースの低下
嚥下に力を使うため、食事の後に極端に疲れたり、食べるスピードが遅くなることがあります。食事に時間がかかるようになった場合も、嚥下機能の変化を示す一つのサインです。
声の変化や痰のからみ
食後に声がかすれる、痰が増えるといった変化が見られる場合も、飲み込みがスムーズでない可能性があります。毎日の食事の中で少しずつ変化が現れるため、周囲が気づけるように観察することが大切です。
家庭で意識できる予防のポイント
食事姿勢を整える
姿勢は嚥下に大きく影響します。背中を丸めず、足が床にしっかりついた状態で食べることで、飲み込みがスムーズになりやすくなります。また、ベッド上での食事の場合は、上半身をしっかり起こし、頭が前に倒れすぎないように調整すると食べやすくなります。
食べやすい食形態を工夫する
嚥下の段階に合わせて、やわらかい料理や、とろみを付けた飲み物を選ぶなど、無理なく飲み込める工夫を取り入れることが効果的です。介護食ややわらか食は市販品も増えており、家庭でも取り入れやすくなっています。
食べるスピードをゆっくりにする
早食いはむせやすさにつながることがあります。一口の量を少なくし、しっかり飲み込んでから次のひと口に進むことで、安全に食事を進めやすくなります。
介護現場で行われている嚥下障害へのサポート
専門職による多面的なアプローチ
介護施設や訪問介護の現場では、利用者の嚥下状態を観察しながら、食形態や食事量、姿勢などを調整する取り組みが行われています。介護スタッフだけでなく、管理栄養士や言語聴覚士（ST）など、専門職と連携しながら食事の安全性と負担の軽減を図るケースもあります。個々の利用者に合わせて細かく対応できる点が、専門職のサポートの大きな利点です。
食事環境の整備
嚥下しやすい環境を作ることも非常に大切です。静かな空間で焦らず食事ができるよう工夫したり、食具を持ちやすいものに変更したりすることで、摂食がスムーズになることがあります。食事姿勢を保つクッションや、手が滑りにくい食器を活用するなど、環境を整えるだけで負担が軽くなる場面も多くみられます。
継続的なモニタリング
嚥下状態は年齢や体調、病気の影響などで変化することがあります。そのため、介護現場では日々の食事量やむせ込みの有無などを記録し、変化に早く気づける体制がとられています。異変に気づいた時点で早めに専門職へ相談することで、状況が悪化する前に食形態や支援方法の見直しが可能になります。
家庭でできるサポート方法
食材の調理方法を工夫する
家庭では、食材を柔らかく煮る、細かく刻む、とろみをつけるなど、飲み込みやすい形に整えることで負担を軽減できます。また、市販の介護食ややわらか食、レトルトのとろみ付き食品を活用すれば、調理の負担を減らしながら安全な食事を提供しやすくなります。
食事時間に余裕を持つ
嚥下障害がある場合、スピードを求めるとむせ込みや疲労につながることがあります。時間に余裕のあるタイミングで食事を行い、本人のペースでゆっくり食べられるよう配慮することが大切です。
水分の摂り方に注意する
水分は誤嚥しやすい場合があるため、とろみをつけたり、ゼリー状の水分補給食品を利用したりすることで飲み込みやすくなることがあります。無理に水分を増やす必要はありませんが、脱水を防ぐためにも、本人に合った方法を工夫することが大切です。
専門的支援を受けるタイミング
むせる回数が増えたとき
食事中のむせ込みが頻繁になったり、飲み込みに時間がかかるようになったと感じた場合は、言語聴覚士（ST）や医療機関へ相談するタイミングです。専門的な評価によって、嚥下の状態に合わせたアドバイスや訓練が提案されることがあります。
体重減少や食欲低下が見られるとき
嚥下の問題が原因で十分に食べられない状況が続く場合、体力や生活の質にも影響が出やすくなります。管理栄養士や専門医に相談し、食事の改善方法や食事形態の見直しにつながることがあります。
家族の介護負担が大きくなってきたとき
家庭での食事介助は、精神的にも身体的にも負担を感じることがあります。専門職に相談することで、より無理のない介護方法やサポートサービスの利用など、負担軽減につながるヒントが得られます。
まとめ
嚥下障害は、年齢や病気などによって誰にでも起こりうる変化ですが、早めの気づきと適切なサポートによって負担を軽減することができます。食事姿勢、食形態の工夫、ゆっくりした食事ペースなど、日常生活の中で取り入れられる対策は多くあります。また、専門職のサポートを活用することで、より安全で快適な食事環境を整えることも可能です。家庭でも介護現場でも、本人が安心して食事を楽しめるよう、無理のない範囲で工夫や支援を続けていくことが大切です。
